愛して、涙。~雨上がりの空に輝く2人の絆~
第2章 出逢い
愛莉咲side
「おっはよぉ!」
そんな元気な声とともに背中に走る衝撃。
「もう!羽流痛い!」
叩かれた背中を擦りながら隣を見る。
私の名前は加藤愛莉咲(カトウアリサ)。
そして隣で「ごめん!」と言いながら笑ってるこの子は私の幼なじみの井上羽流(イノウエハル)。
私たちは今日から高校1年生。
家の近くにある有名な私立高校で世界屈指のエリート高校。
「紅帝学園(コウテイガクエン)」。
なんでも500点満点中490点取らなければ入ることができないらしい。
私たちの高校はそんな頭のいい高校じゃなくその隣の不良高校。
「紅龍高校(コウリュウコウコウ)」。
この高校は家庭に事情がある人、もしくはこの街を支配している暴走族、"龍奏(リュウソウ)"に入りたい人が通う。
私と羽流は前者。
私は小さい頃に交通事故で両親をなくした。
羽流は父子家庭でお父さんに迷惑はかけれない、と自分で稼いだお金で高校に通うらしい。
私はというとおじいちゃんがお金持ちだったりする。
だからお金には困らないしなんでもできる。
今は近くのマンションで優雅な1人暮らし。
最上階に住んでるから騒音もなく気ままに過ごしてるけど最近は寝ていても"龍奏"が毎日のように暴走してるからバイクのエンジン音で目が覚めてしまう。
羽流と2人で校門に向かって歩いていると前からバイクの集団が。
「ねぇ愛莉咲。あれでしょ?龍奏って。」
羽流の質問に軽く頷く。
大きなエンジン音がどんどん近づいてくる。
バイクの集団は私たちの目の前で止まり先頭の1人がバイクに乗ったままヘルメットをはずす。
そして私たちを見下ろしてこう言った。
「そこの2人、俺らについてこい。」
先頭の彼のその言葉に困惑しつつ細かいことは気にしない主義の私たちは何事もなかったかのようにバイクの集団について行く。
周りの生徒から漏れる安堵のため息と心配の声。
「あの子たち何やったの?」
「"龍奏"の姫か?」
「殺されるとかないよね?」
そんな声を聞きながらバイクを引いて前を歩く集団を追いかける。
連れてこられたのは体育館の裏にある大きな倉庫。
その倉庫に次々にバイクを入れていく集団。
「おい、そこ座れ。」
そう言われて見た場所には大きなソファが4つとその真ん中に机が1つ。
そのうちの1つに羽流とくっついて座る。
なんだかんだいって怖いのは確か。
そして私は男性恐怖症。
それを知ってる羽流は私の背中を優しく撫でてくれる。
「あの私たちになにか?」
隣の羽流が先頭を歩いていた彼に話しかけた。
「総長がお前らを連れてこいと言った。それだけだ。」
「あのあなたの名前は?」
羽流がそう聞いたことに驚いたのか彼は目を見開くと
「難波悠都(ナンバユウト)」
とこたえた。
「難波さん」
「悠都でいい。"龍奏"は堅苦しいのは嫌いだ。」
「じゃあ悠都くん。」
「まぁそれでいい。もうすぐ総長が来る。」
羽流がそう呼んで難波さんが軽くこたえたとき、倉庫のドアが開いた。
「待たせたな。」
後ろから入る外の光はドアのところに立っている彼を輝かせる。
「あなたが総長さん?」
羽流が不思議そうに聞く。
「あぁ。」
ツカツカと私たちの方に歩きながらそうこたえる。
私たちの目の前まで来ると
「羽柴瑠威(ハシバルイ)だ。」
そう言ってニヤリと笑った。

このときはまだ知らなかった。
私が瑠威と恋に落ちることなんて。
そして人生で1番辛く悲しい想いをするなんて。
その先にある幸せも。


「お前らをここに連れてきたのは理由がある。」
その言葉に首を傾げる私となにか納得したような羽流。
「もしかして瑠威ってるー君?」
隣の羽流から出たそんな疑問。
「あぁ、久しぶりだな羽流」
「え、どういうこと?」
訳が分からない私に羽流が優しく教えてくれる。
「るー君は私のいとこ。3歳のときに会って以来だから全然わかんなかった。」
「羽流のいとこ?」
「あぁ、羽流の1個上。羽流がここに入るって言うから一応注意しとこうと思って。」
羽流の1個上ってことは2年生。
「注意って?」
「あぁ。最近"嘔雷(ハクライ)"ってチームが女をさらってレイプしてるんだ。」
"レイプ"という言葉に震える私の体。それを見た羽流は私を優しく抱きしめながら呟く。
「愛莉咲、大丈夫。今ここにいる人は誰も愛莉咲を傷つけない。」
羽流の言葉に体の震えが収まった頃。また羽柴さんが話し始めた。
「羽流は武道1式習ってたから大丈夫だと思うけど愛莉咲が心配だ。」
突然の呼び捨てに体がビクッと反応する。
「るー君、なんで呼び捨てなのさ。」
「悪ぃ、癖で。」
「私は大丈夫だから。愛莉咲でいいです。」
私がそう言うとびっくりした顔の羽流と嬉しそうな羽柴さん。
「だから"嘔雷"との片がつくまで"龍奏"が護衛につく。」
「え、そんな大丈夫です。自分でなんとか出来ますから。」
「愛莉咲無理はダメだよ!こう見えて"龍奏"は正統派だし、なんかあったら助けてくれるよ?」
「でも私、男の子ダメだもん。」
「あっ、そういえば笑」
男性恐怖症という肝心なことを忘れていた羽流。
「あ?どういうことだ?」
「いや、なんでもないです。ほんとに大丈夫ですから。」
そう言って倉庫から出ようとしたとき
「おい、待てよ。」
腕を掴まれ振り向くと難波さんが怒りの形相で私を見ていた。
「ちょっと悠都くん!愛莉咲の手離して!」
「あ?なんで?」
「愛莉咲は男性恐怖症なの!」
羽流がそう叫んだ瞬間私の意識は真っ白な世界に飛んで行った。

気がつくと目の前には羽流の心配そうな顔。
「...は、る?」
私の声に羽流の目が大きく開く。
「愛莉咲!よかった!」
「ごめんね、羽流。」
「もう!心配したんだからね!」
涙目で怒りながら私を抱きしめる羽流。
その隣には心配そうな顔をした羽柴さんとバツが悪そうな顔の難波さん。
「あの、ごめんなさい。私男の子ダメなんです。だから護衛はいりません。」
「愛莉咲、でも私がいたら?」
「羽流がいたら大丈夫かもだけど...。」
羽流の言葉にホッとする。
「愛莉咲さんごめん。俺が軽率な行動したから。」
「難波さんのせいじゃありません。私のほうこそ傷つけてごめんなさい。」
「愛莉咲ごめん。俺がもっとしっかりしてれば。」
「え?」
「羽流からだいたいのことは聞いた。」
「だいたいのこと?」
「3年前の話。」
羽柴さんの言葉に体が固まる。

~3年前~
「じゃぁ!また明日!」
私のマンションの少し手前にある羽流の家の前で別れる。
マンションのすぐ側のコンビニに入ろうとしたとき、後ろから伸びてきた手によって暗い路地に連れ込まれた。
「やっ、離して!やめっ、誰か!」
「黙れ。殺すぞ。」
低い声で脅され口にガムテープを貼られる。
体を這い回る手。
荒い息。
下腹部に走る痛み。
それらを五感で感じながら意識が途絶えた。
目が覚めたとき、私の前には婦警さん。
「あなたをレイプした人は逮捕されたわ。よく頑張ったわね。」
その婦警さんの優しい言葉に涙が止まらなかった。
少しして羽流が来て一緒に事情聴取を受けた。
思い出したくはなかったけど震える体を叱咤して全てを話した。
もう二度と私のような被害者が出ないように。


「3年前のあのことは今でも忘れられないの。」
私が口にしたその言葉はきっと誰が言うよりも重く聞こえた。
「暗いとこは怖いし、男の子も怖い。夜に1人で外出もできない。私は羽流がいたからここまで生きてこれた。」
「あの事件のあとすぐは、何度も死のうとしてた。」
私の言葉に羽流が付け足す。
それを苦しそうな表情で聞く羽柴さんと難波さん。
「だから私は必要以上に男の子とは関わりたくない。」
「でも俺らが警護につかなきゃまた同じ目に遭うかもしれないんだぞ?」
「ちょっとるー君!もっと言葉考えてよ。」
震える私を支えながら羽流が声を大きくする。
「羽流、いいよ。」
「でも、、」
「羽柴さんか難波さんなら大丈夫です。その他のメンバーはたぶん無理だから。」
私の顔を見て安心した様子の羽流。
「私を守ってくれるんですよね?」
「あぁ。絶対に。」
強い意志を持ったその言葉に震えが収まっていくのがわかった。


羽流side
目の前の光景に驚いた。
男性恐怖症で男子と関わろうとしない愛莉咲がるー君たちと話してる。
いつも私の後ろに隠れてるだけの愛莉咲が自分から話すのは珍しい。
それだけこの2人に心を開いてるってことだ。
「...る、は..る、羽流?」
「え?」
愛莉咲の声に我に返る。
「ごめん笑。ぼーっとしてた。」
「しっかりしてよ。」
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