爽やかくんの為せるワザ
「……へぇ」
目を開いて呆然とする藍くんは、漏れるように言葉を発した。
そして再び私と佐賀くんを交互に見て、「そうなんだ」と呟く。
「なんか……」
「……うん?」
「彼女を親に紹介するみたいなシチュエーションだね」
藍くんは少しだけ笑ってそう言った。
えっ、と私と佐賀くんは慌てて顔を合わせる。
そういうんじゃないけど、
……なんだろう。
なぜかすごく、胸が痛くなった。
「ち、違うよ……っ。成瀬さんはただ、僕のお願いを聞いてくれてるだけで……」
「うん、ごめんごめん。ちょっと思っちゃっただけだよ」
笑顔で佐賀くんの肩を叩く藍くんを、私はじっと見つめる。
……いつもの笑顔じゃない気がする。
藍くん、なんか様子がおかしい?
「ていうか引き止めちゃってるね俺。じゃあ、また明日」
涼し気な笑顔を見せて手を振る藍くんは、声を掛ける間もなくローファーを履いてそそくさと帰って行ってしまった。
「ま、また明日」と追い掛けるように言ったが、聞こえたかどうかは分からない。
……気を遣わせてしまった。
でも、「また明日」って言った藍くんはいつも通りの藍くんだった。
様子がおかしいと思ったのは、私の勘違いか。