爽やかくんの為せるワザ
――佐賀くんについて行くこと15分。
私達は白っぽい大きなマンションに到着した。
佐賀君曰く、ここが佐賀くんの家らしい。
……良いマンションにお住いで。
「7階……」
エレベーターに乗った佐賀くんが呟くように言ったので、私は何も言わず7階のボタンを押した。
1階から7階まで、私達の間には沈黙が流れる。
……エレベーターってなんでこんなに気まずいんだろう。
息をするのも気を遣う。
「……ごめん、成瀬さん」
沈黙を破ったのは佐賀くんだった。
「え?」
「わざわざ来てもらって……気遣うだろうに……」
「そんなの今更だよ。私は全然気にしないってば」
「……う、羽水くん」
ぴくっと、その名前に体が反応する。
エレベーターの窓から断続的に見える外の景色を見つめたまま、私は佐賀くんの言葉を静かに待った。
「怒ったり……してないかな?」
「……なんで藍くんが怒るの?」
「いや……だって……」
言い辛そうに言葉を濁した佐賀くんが、窓の反射で俯いてしまっているのが見えた。
……佐賀くんが言いたいことが分かるわけじゃないけど、
なんとなく、私の心のモヤモヤと同じような理由がある気がする。
でも、私はそれを考えたくない。