爽やかくんの為せるワザ
「怒らないよ」
「……え?」
「藍くんはこんなことで怒らないよ。
ただ、ちょっとびっくりしてただけだと思う」
「そ、そっか」
佐賀くんの少し安心したような表情が反射で見える。
うん。
……怒ってないよね、藍くん。
怒るわけがない。
だって藍くんと私は友達なんだから。
佐賀くんの家に行くことが、駄目な理由がない。
……って、だから私は誰に言い訳しようとしてるんだ。
と、ここでエレベーターが7階に到着した。
外に出ると、心地良い風が体に当たる。
後ろから佐賀くんが「右……」と指示してくれたので、私は廊下を右に曲がって歩き出した。
「……成瀬さん」
「うん?」
「僕の母親に……圧倒されるかもしれないから、覚悟しておいた方がいいかも……」
……へ?
首を傾げた私の隣を通り過ぎた佐賀くんは、近くのドアに鍵を挿した。
あ、ここ?
って、さっきのは一体どういう意味?
「……ただいま」
「あら、おかえりなさい」
佐賀くんの声に反応するように、奥から女性の声が聞こえてきた。
佐賀くんがドアを開いたまま玄関に入っていったので、私も慌ててその後をついていく。