爽やかくんの為せるワザ
おまけ 〜阿呆と可憐〜
「休憩ー」
笛と共に休憩の号令がかかる。
走っていたサッカー部員は息を切らしながらベンチへと向かいだした。
「敬吾ほんと足早ぇーな」
部員の1人が、水筒のお茶を飲んでいた敬吾の肩を叩く。
敬吾は水筒から口を離して「走るの好きだからな!」と笑ってみせた。
「おーい敬吾〜」
そこで、少し離れた所から女子の声が聞こえてきた。
敬吾と数人の部員が声のした方に振り返る。
「ボール、ここにも転がってるよー」
「お、サンキュー!蹴って蹴って!」
練習で使っていたサッカーボールがグラウンドの外に出ていたらしく、通りがかった女子達が気付いて声を掛けてくれたのだ。
敬吾がブンブン手を振ると、1人の女子がボールをこちらに向かって蹴ってくれる。
敬吾はその女子にはっと気付き、思わず振っていた手を止めた。
「……か、花恋ちゃん……」
離れた女子には聞こえないくらいか細い声。
突っ立ったままの敬吾の顔はみるみる赤くなっていった。
花恋が蹴ったボールは、敬吾から逸れて別の方向へ曲がって転がっていく。
敬吾は既にボールどころではなかった。
「あはは、花恋どこ蹴ってんの」
「ごめん敬吾ー」
周りの女子が笑いながらこちらに声を掛けてくれるが、敬吾の耳には届いていない。
コロコロ転がっていくボールをよそに、敬吾は花恋を見つめたまま固まっていた。
「敬吾くんごめんねー!」
花恋の声に、はっと我に返る。
少し離れているのに、花恋の声だけが大音量で脳内に再生される。