爽やかくんの為せるワザ



「……それは全然大丈夫だけど……」




そう言って手元のスケッチブックに視線を落とす佐賀くん。





〝僕に好かれたとして……成瀬さんも嬉しいって思ってくれる?〟





はっ。

また思い出してしまった。


あれはなんでもない、ただの質問だってば!


考えないようにしてたのに……なんで思い出しちゃうの。


……あの時のことを考えると、なぜか胸がざわざわするというか……落ち着けなくなる。


あーもうっ、

考えるの禁止!




「あ、いた」




背後から聞こえてきた聞き慣れた声。

勢い良く振り返ると、渡り廊下から藍くんがこちらに歩いて来てるのが目に入った。



……あ!



「藍くん!もう委員会終わったの!?」


「うん。今日は早かった」


「そうだったんだ……お疲れ様っ」


「ありがとう珠姫ちゃん。待たせてごめんね」




爽やかで素敵な笑顔が眩しい。

藍くんのこの笑顔が見れるなら、私はいくらでも待てます。




「佐賀くんと話してたんだ?」


「……う、うんっ。佐賀くん部活中だったけど」


「……」



佐賀くんは藍くんと目が合うと、無言でぺこりと会釈した。



さっきの会話……さすがに藍くんには話せない。


『藍くんに理性失ってもらえる方法』を勉強中なんて……

ドン引かれる。


あぁ、私って付き合ったことないから知らなかったけど

こんなにも変態女だったのか……。




「……じゃあ帰ろっか。佐賀くん、話してくれてありがとう!」


「ううん……全然」


「また明日ねっ」




私と藍くんが手を振ると、佐賀くんも少し恥ずかしそうに手を上げてくれたのだった。


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