爽やかくんの為せるワザ
ひょこっと角から廊下を覗くと、そこには窓際の壁に背をつけて座り込む男子が1人。
黒い艶やかな髪が印象的だ。
彼は引っ叩かれたであろう頬を片手で押さえて俯いている。
落ち込んでるのかな。
……そりゃそうだ、彼女にビンタされてその上振られて罵声浴びせられたんだから。
「……あの、大丈夫ですか?」
そんな彼に、思い切って声を掛けてみる。
……心配なのは、彼の頬。
自販機の前にいた私にまで聞こえてきたビンタの音からして、かなり強く叩かれたのが想像できた。
冷やさないと赤く腫れ上がっちゃう……。
「……え」
頬を押さえたままこちらを見上げた男子。
よく見ると、綺麗な顔立ちをしていた。
……あれ?
確かこの人、同じ学年の羽水藍くんじゃなかったっけ……。
名前が珍しいし、フレンドリーで割と目立つ存在だったからなんとなく知ってる。
話したことは無かったけど。
そんな驚いた表情の羽水くんを見て、少しだけ緊張する。
「ごめんなさい、話してるの聞こえてて……」
「……そうなんだ」
「あ、保健室行って頬を手当てした方が良いと思う……。保健室行くまでこれで冷やして?」
そう言って、私は彼に近付いて手に持っていた牛乳パックを差し出した。
彼は私の顔と牛乳パックを交互に見てきょとんとする。