待ち合わせは5分以内に
病院から家に電話がかかってきた事は覚えている。

でも、そこからの事は覚えていない。

どうやって行ったのかはわからないけど、気づいたら父の病室にいた。

包帯だらけで、体中にコードを付けられた父を前に、私は言葉を失った。

担当してくれた先生が父の状態を説明してくれたけど、当時の中学生だった私には詳しいことはよく分からなかった。それでも、父がもう助からないという事だけはよくわかった。

亡くなる直前、奇跡的に父は目を覚ました。
父が、途切れ途切れの弱々しい声で、それでも必死に紡いだ言葉を私ははっきりと覚えている。


「すまない。お前を1人にしてしまう。
お前を守ると約束したのに。母さんにもきっと怒られてしまうな。

父さんと母さんを選んでくれてありがとう。お前が生まれてから、父さんは幸せだった。母さんが死んで、寂しい思いもいっぱいさせたと思う。それでも、父さんはお前が居てくれたおかげで寂しくなかったよ。

父さんも母さんも紫乃が大好きだ。
生まれてきてくれてありがとう、





紫乃、愛してるよ。」





私は、精一杯の笑顔で父を見送った。
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