冷たいキスなら許さない
まだ食い下がるメグミちゃんに辟易し始めたころ
「灯里は俺の好みのタイプじゃないけど可愛いだろー。手離せないんだよなぁ、これが」
電話を終えた社長がふてぶてしく私の肩に腕を乗せながら笑った。

「あー、またイチャイチャしてるぅ」
外回りから戻った営業の男性社員、杉山さんが私たちをからかってくる。

「おぅ、いいだろ。来週からしばらく灯里を厚木に貸し出すから今のうちにイチャイチャしとくんだよ」
私の肩に回した腕に力を入れて自分の方に引き寄せようとするから腕を突っ張って抵抗する。

「社内でその演技必要ないですから」

嫌な顔をしてやると社長はゲラゲラと笑い出した。

「しばらくその鼻と眉間にシワが寄る生意気でかわいくない灯里の顔が見られないなんて。寂しくて泣くかもな、俺」

なんだとぉ。生意気でかわいくないだと。
「いっぺん三途の川を見て来てください」
「うっ」
わき腹を軽く殴って席を立った。

「メグミちゃん、お昼に行こう。ごちそうするよ、社長のツケだけど」

わき腹を押さえて痛がる社長を無視しメグミちゃんの腕を引っ張り手ぶらでオフィスを出た。

背後で「てめー、灯里、ボーナスひくぞ」なんて声が聞こえたような気がするけど、無視、無視。
社長は絶対そんなことしないから。
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