冷たいキスなら許さない
「あー、あれな。ま、うちに泊まるヤツのというか」
珍しく口ごもる社長を見て、はっと気が付いた。

「ごめんなさい。彼女さん用だったのね。ホントに鈍くてすみません」
そっか、セミダブルで二人で寝るんだ。

社長の軋むシングルベッドじゃ眠れないもんね。
でも、でもさ、自分と彼女と寝るベッド作りを私に手伝わせるなんて、ちょっとこのオトコ、デリカシーが足りないんじゃないのかな。
胸の奥に棘が刺さったような痛みに似た嫌な感じがじわっと広がった。


社長に会合やパーティーなど外に出るときに秘書としてだけでなく彼女のようにふるまって欲しいと頼まれたのは3年半前のこと。
もともと秘書のいないフォレストハウジングで社長のスケジュールは社長自身が管理していた。

私の仕事はいわば何でも屋で、秘書のように社長や副社長兼企画の光さんのスケジュール管理をしたり、その他村上さんや大坪さんなど主要スタッフのアシスタント、イベントの雑用から経理のお手伝いまで。
要するに一つの部署に固定されず動く社長の駒なのだ。

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