冷たいキスなら許さない
「灯里、明日なんだけどーー」
もやもやしつつ顔も見たことのないカオリさんから隣に座る大和社長に意識を戻した。
こうして私と二人で飲んだりしてるからカオリさんが嫌がってプロポーズに応じないって可能性はないんだろうか?
私たちは男女の仲ではなくて上司と部下だけど大和社長の飾らない性格のおかげでちょうどいい距離感で過ごしている。ああ、おまけに遠い親戚だったっけ。
「厚木に送る前に蓼科のミュージアムに寄ろう。これから一緒に仕事するイースト設計の東山さんの仕事を見ておくのもいいだろう」
「あのガラス張りのところですね」
「そう、それ」
「ハイ。ぜひお願いします」
あの蓼科のミュージアムは展示物が気に入っていていたのだけど、建造物としての視点からもかなり興味深い。
社長が同伴してくれたらもっと深く知ることができるだろう。
ワクワクしてくる。
それに社長はイースト設計の仕事を受ける気になったようで安心、安心。
私は自分の心を乱されないように櫂と極力接触しないよう逃げ回ればいいのだ。
今更過去に引きずられるのはごめんだ。