冷たいキスなら許さない
ただでさえ週明けは忙しいのに、金曜午後に社長にソフト拉致されて早く退勤してしまった分の仕事もたまっている。
更にイースト設計の仕事を受けることになれば、下北さんはそちらに取られることになるだろう。
少しでも私が下北さんのフォローに動けるように今のうちに準備しておかなくてはいけない。

カタカタとキーボードを叩いていたらいきなり後頭部をファイルで小突かれた。
「いたっ」

「あほか、メシに行くって言ってんだろ。さっさと来い。俺に手間かけさせんな」
すぐ後ろに社長が立っていてファイルを右手にイラついた顔をしている。

「今、区切りが悪いんですけどー」
ホントにこの人のこういうところが暴君なんだけど。
思いっきり嫌な顔をしてやると社長がぶはっと吹き出した。

「そうそう、この顔、この顔」
お腹を抱えて笑い始めた。うぬぬ、相変わらず失礼なオトコだ。

「社長、お母さんに言いつけますよっ!まったくもう」
三十路になっても母親の存在は特別のはず。うん、お母さんに言いつけて叱ってもらおう。

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