冷たいキスなら許さない
横断歩道の手前に数人の幼児を連れた保育士さん達の姿を見つけてゆっくりと車を停止した。

お散歩かな。
大きな乳母車のような乗り物に幼い子供が4人乗せられていてもう少し大きな子たちは手をつないでジャージ姿の保育士さんと歩いていく。子供が2~3人に対して1人の保育士さんが付いているようだ。

先頭を歩く若い保育士の女性が私の車に向かって会釈をしてくれて、子どもたちからも「ありがとう」と声がする。

「なんか、いいですね。こういうの。当たり前のことしてるのに癒されます」

「灯里も産むか?」
唐突なひと言に一瞬言葉を失う。

「は?喧嘩売ってます?」

「いや、子ども見て癒されるなら自分の子がいいんじゃないかと思って」

「余計なお世話です。私より子どもを持つのなら年齢的に社長だって早くしないと、子どもが大学卒業する前に還暦を迎えますよ」

「か、還暦・・・」

思いっきり嫌みになってしまったのは、横断歩道を渡っていく若い保育士の女性たちが明らかに車内の社長を頬を染めながら二度見三度見していくからだ。

助手席でふんぞり返っているこのオトコ、確かにイケメンですけどね、ひと言多いし暴君なんだからと声を大にして教えてあげたい。

それきり、会話もしないでお母さんの待つ家に着いた。
支社からは目と鼻の先だけど、ゆっくりしている暇はない。近所のお店にランチをしに来たって感覚でいないと、午後の仕事に響いてしまう。



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