冷たいキスなら許さない
「着いたぞ。午後の仕事もよろしくな」
「あ、社長は今日のうちにあっちに戻るんですか?」
シートベルトを外してドアを開けた。
「ああ、それなんだけどーー」言いかけた社長の言葉は続かなかった。
「失礼ですが、フォレストハウジングの森社長でいらっしゃいますか?」
いきなりうちの会社のエントランスからスーツ姿の櫂が姿を現したのだ。
呆然とする私を気にする様子もなく、櫂は社長に向かって挨拶をしはじめた。
「突然で申し訳ありません。初めてお目にかかります。イースト設計の桐山櫂と申します。本社の方に連絡させていただいたら今日はこちらだと伺いまして急いでご挨拶に参りました」
礼儀正しく、スマートな仕草で名刺を取り出す。
社長も一瞬驚いたようだったけど、すぐにビジネスモードに入っていた。
ああと頷くと、「私もお会いするのを楽しみにしていました。ここじゃなんですから中にどうぞ」と櫂を社内に誘導している。
チラリと送られた私への視線で我に返った。