冷たいキスなら許さない
「こちらへどうぞ」
誘導は秘書の私の仕事だった。こんなことで動揺してる場合じゃない。
イースト設計の仕事が始まればこんな風に何回かは顔を合わせることになるだろう。
応接室に案内すると、給湯室に駆け込み、お茶を蒸らしている間に下北さんを捕まえた。
「イースト設計がきてますけど」
「うん、さっき挨拶に来て。入れ違いにならなくてよかったね」
いやいやそういうことでなく。
「下北さんは行かなくていいんですか?」
「僕、もうさっき挨拶終わってるし」
いやいやいや、そうじゃなくて。
大丈夫だと思うけどどっちかが余分な事言い出さないかって心配なんですけど。
できれば下北さんに同席して欲しかった・・・けどまさかここで私の事情を説明してなんてそんなこと言うわけにいかない。
「お茶出ししてきます」
くるっと背を向け重い足取りで給湯室に戻った。
いつもならお茶の葉の開き具合とか香りとかを楽しみながら淹れるのだけど、今日はそんな余裕など微塵もない。