冷たいキスなら許さない
何話してるんだろう・・・応接室のドアの前で開けるのをためらいそうになる。
トクトクと心臓の鼓動が気になるほど緊張しながらノックして入室する。

「失礼いたします」

二人の視線が私に注がれじわっと汗が出た気がする。
どちらの表情も普段通りに見えるから私の心配など杞憂だったのかもしれない。

「どうぞ」
櫂の前にお茶を置くと「ありがとう。灯里さん」と櫂が私の顔を見ながら微笑んだ。

”灯里さん”?!
それは明らかに愛想笑いではなくて親しい人に見せるようなもので一瞬私の身体が固まる。
やっぱり杞憂じゃなかった。

櫂は私と自分が知り合いであることを隠すつもりはないらしい。
どういうつもりかわからないけど、負けちゃダメ。

「どういたしまして」穏やかに笑みを返して社長の前にもお茶を置いた。

社長と視線を合わせて「何か用がありましたらお声かけ下さいませ」とほほ笑んで退室した。

ドアを閉めた途端に足が震える。わきに抱えたお盆を落とさないように指先に力を入れ給湯室に戻った。

気まずい別れ方をした元カレ、元カノと職場で再会した時の対応の仕方と検索したらネットではどんな返事が返ってくるんだろうか。
スマホのAIなら何て答えるだろう。
< 118 / 347 >

この作品をシェア

pagetop