冷たいキスなら許さない
「では、失礼します」大和社長の腕をとってぺこりと頭を下げて立ち上がると、慌てた様子で「灯里」と櫂が近付いてきた。

櫂は他の3人ほどは酔っていないらしい。少し瞳が充血しているけれど。

「また連絡するから」

はあ?私が眉間にしわを寄せると、
「いや、悪いけど灯里は俺のだからね。仕事の連絡なら下北にしてくれ」
酔ってるはずの社長が私と櫂の間に身体を入れて自分の背中に私を隠した。

やだ、本当の恋人みたい・・・

思わず社長の大きな背中のワイシャツをきゅっと握ってしまう。

「灯里、帰るぞー」
「ハイ、大和さん」
今夜はいつもと反対で外敵から私を守ってくれる役らしい。

櫂はそれ以上何も言わず、黙って私たちを見送った。

料亭の前にはタクシーと下北さんの奥様の車がスタンバイしていて、私たちはスムーズに車に乗ることができた。

「灯里さん、大和をよろしく」
「オッケーです。お疲れさまでした」

タクシーの車内から下北さんと奥さんに手を振ると、隣に座る社長から速攻で寝息が聞こえてきた。
早っ。

でも、さっきはカッコよかったし、助かった。

暗がりの車内で眠る社長の顔をまじまじと見る。
本当はカッコいいんだよね。櫂とは違うタイプのイケメン。

女性にモテモテ。
偽でもこの人の彼女役ができるのは光栄なこと。疑似体験。
だって、ホントの恋愛なんてもうしたくないから。

ーーー揺れる車内で眠る大和社長の顔を飽きもせずじっと見つめたーーー。



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