冷たいキスなら許さない
ハハハッと笑い声がして小城さんがこちらに来た。

「灯里ちゃん、今日のパーティーにゼネコン大崎建設の常務が来るんだよ。あのひと、セクハラ常務って評判なんだ。だから大和さんは灯里ちゃんが心配なんだ。まだ時間があるだろ?一度家に戻ってパンツスーツに着替えておいでよ」

「え?セクハラ常務?」
聞いてませんけど?
「そうそう有名なね」
小城さんが苦笑いしながら情報をくれた。

「そうなんですか?」振り返って社長の顔を見ると、社長がしかめっ面をしている。

「東山さんの話だと、なかなかのエロ親父らしい。ただ、今夜は経団連のお偉いさんも顔を見せるし東山さんがらみでこっちの業界の顔つなぎになるから出席は必須だし。
できれば灯里は連れて行きたくはないんだけど、灯里も顔つなぎをしといたほうがいいと東山さんからのおススメなんだ」

なんだ、ご機嫌が悪かったのはこれが原因か。

「それは社長が私のそばを離れなければいいんじゃないですか?」
「そんなことはわかってる。お前も勝手なことするなよ」
私の肩の髪をぱらりと払って
「だから化粧なんて直さなくていいし、ない色気も出さなくていい」と暴言を吐いた。

むむむ。
どうせ色気なんてないけれど。なんかムカつく。

「着替えますからうちに寄ってください」
開始時刻まではまだ十分すぎるほど時間がある。おとなしく社長の指示に従ってパンツスーツにした方がいいだろう。

・・・もしかして、私の服まで心配して早く迎えに来たんだろうか?

私の帰り支度を待つ間、新人女子二人に囲まれて笑顔で雑談をする社長の横顔をそっと眺めたーーー

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