冷たいキスなら許さない
場内が薄暗くなり、ここのオーナーやシェフ、ソムリエのほかにイースト設計の面々が簡易ステージ上にずらっと並んで挨拶が始まった。

ステージ上に東山氏の姿はなくイースト設計からは副社長の奥さまと櫂の姿。
人嫌い、派手嫌い、注目されることも写真も嫌いの建築デザイン業界の至宝は今夜もお隠れになってるわけだ。

「あれ?確か今夜はいろいろな人に引き合わせてくれるからって東山氏が招待してくれたんじゃなかったんでしたっけ?お見えになってないみたいですね」
隣に立つ社長に顔を寄せてこっそり囁くと「そう聞いてるけど」と社長も首をひねった。

「僕ならここに居るよ」
ひぃっ。私と社長の間の背後から急に声がして驚いて声を上げそうになる。

振り返るとサングラスに薄いピンク色のシャツとタイトパンツ姿の東山氏。
び、びっくりした。

「ごめんねー、驚かせちゃった?灯里ちゃんの息が止まったら大和君に殺されちゃいそうだな」のんきに笑っている。

「あちらに行かなくていいんですか?」
こんなとこで普段着で。しかも、ちょっとチャラい。

「いいの、いいの。ああいうとこ嫌いだし。今回の設計は桐山だし。俺はいいの」

「かぃ、・・・桐山さんですか」

「うん。なかなかいい出来でしょ」

満足げに微笑む東山氏に「ええ、素晴らしいですね」と大和社長が答える。
私は黙って頷くことしかできなかった。

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