冷たいキスなら許さない
「森社長、灯里ちゃん」
東山氏の奥様が手を振りながら近付いてきて私とハグをする。

「たくさん紹介してもらった?」

「ありがとうございます。あの、ご主人はーー」

「あ、いいの、いいの。あの人ならもう帰ったはずよ」
ふふふと笑う。「今夜は森社長のためだけに来たから」

やっぱり。
私と大和社長は顔を見合わせた。

「通りであちこちで「キミは東山君の特別なんだね」と言われると思いましたよ」

「ふふふ。そうでしょうね。あの人がこんな人前に出るのは2年に1回もないことだから」

えええー。そんな状況だったわけだ。

「ご期待に応えられるよう誠心誠意頑張らせていただます」
大和社長は奥さまに向かって悠然と微笑んだ。

焦る私とは真逆。さすが大和さん。うちの社長はとっても頼もしい。

「お二人とも疲れたでしょうけど、ここのお料理もとってもおすすめなの。せっかくだからゆっくり食べて帰るといいわ」
奥さまの指さす先には色とりどりの料理がビュッフェ形式で並んでいる。

実はさっきからずっと気になっていた。
キャビアとスモークサーモンのカナッペ、ローストビーフ、エビのフリッターも見える。
ついっと大和社長を上目づかいで見るともう笑いをこらえて肩を震わせている。
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