冷たいキスなら許さない
ぶるぶるっとスマホが振動している。これは電話。

そっと画面を見ると、櫂だ。
かかってくると思っていた。

森家の広い玄関のドアをそっと開けて外に出る。ポーチの隅に移動して電話に出た。

「もしもし」

「灯里、俺だけど。もう家に着いたか?ーー今日は悪かったな」
電話の向こうではざわざわと多くの人たちの気配がする。

「あなたまだ仕事中でしょ。私もまだ話せる状態じゃないの。いろいろ言いたいことはあるけど・・・後で、夜中になると思うけどメールする。それでいい?」
まだパーティーが終わったばかりか、もしかしたら終わってないかもしれない。その後の片付けもあるんじゃないだろうか。

「ああ。わかった、待ってるよ。とりあえず灯里の無事を知りたかっただけだから。ごめんな」
「何に対して”ごめん”なのかはあとで聞くことにする。じゃあ、もう切るから」

櫂の返事を待たずに通話を終えた。

櫂には自分の彼女に確認する時間を与えたつもり。
どのみち、森家にいたら私も櫂と話をするのは無理だけど。

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