冷たいキスなら許さない
「桐山はどうだ?」

え・・・

一瞬すごむような声で問われて身体が固まる。

「桐山と何もなかったのかと聞いている」

こんな聞き方社長らしくない。
おそらく、いやこれは絶対に社長は私が櫂とキスしたのを見たんだろう。

「何も・・・というか社長と待ち合わせしたソファースペースを見ようとして振り向いた時にお互いの唇が触れてしまったっていう”事故”はありましたけど。それはただの事故ですから。特に会話もしていないし、他にはなにもありません」

平坦な調子で抑揚をつけることなく言い放つと、社長は何も言い返してはこなかった。

私から視線を外して小さく息をつくと
「風呂に入ってくる」と私を囲いこんでいた両手をテーブルから離した。

「ごゆっくりどうぞ」
解放された私はホッとして、手にしたグラスとお皿をキッチンに運ぼうと一歩踏み出した。

!!
いきなりーーだった。

身体を離したはずの社長がいきなり私の顎をくいと持ち上げて軽く唇を合わせてきたのだ。

乾いた唇が重なる。
なにこれ

「事故だ」
目を丸くする私を置きざりにして社長はバスルームに消えていった。




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