冷たいキスなら許さない
「展示場行ってきます」
大声を上げて壁のホワイトボードにハウジングセンターの文字を書き込んで事務所を出た。
「行ってらっしゃい」「お願いします」の声を背に受けて今や愛車となったLマークの車に乗り込んだ。
ここに来たばかりの頃はまだエアコンが必要だったけど、もう窓を開けて運転した方が気持ちのいい日が増えてきた。
「秋だな~」
半年くらいの命を受けてやってきたこの街にもずいぶん慣れてきたけれど、季節があと二つ変わる前には長野に帰れるのだろうか。
思ったより雑用が多くて私がここを去る前にもう一人事務員を雇用しないと回っていかない気がする。
それより、来年の今ごろもここに居るのかもしれないけれど。
取り立てて嫌なこともなく忙しさを除くと平穏に日々が過ぎている。何も問題はない。
この辺りの紅葉シーズンっていつだろう。
大和さん、進さん兄弟の代わりに森家のご両親と紅葉狩りにでも行こうかな。