冷たいキスなら許さない
それから10日ほどたった頃、次の事件が起きた。
西倉恭香
寝具メーカーのご令嬢。櫂が学生時代に付き合ってたっていう元カノ。
以前、櫂の部屋で昔の写真が出てきたことで知ってしまった櫂の過去。
お昼休み明けで来訪者で賑わう受付には私以外に先輩二人が座り対応に追われていた。
「あなた本木さんね」
私のネームプレートをじっくり見ていたくせにわざわざ確認してくるその態度にカチンとする。
お嬢さまは長い髪を綺麗に巻いてタイトなラインのワンピースにハイヒール。セレブオーラをまき散らしながら真っ直ぐ私に向かって歩いてきた。
私を狙ってきたことは一目瞭然。
私も彼女の顔に見覚えがあったから身体を固くして身構えた。
私とは交際期間がダブっていたわけじゃないけれど、櫂の過去の女性。
「はい。左様でございますがお客様は?」
ニコリと営業スマイルで応対すると西倉恭香はすぐに攻撃してきた。
「これ、櫂から預かったの。あなたに返して欲しいって」
受付のテーブルにかちゃりと音を立ててブランドのキーホルダーが付いたカギが置かれる。
私の部屋のカギ。
櫂が持っていたやつだ。
大理石でできたテーブルに鍵が置かれた金属音と私たちの間に漂うただならぬ雰囲気に受付に座る先輩も来訪者も私たちに目を向けた。
こんなとこで修羅場か?なんてひそひそ声まで聞こえてくる。