冷たいキスなら許さない
余りの衝撃にカギを見つめて息が止まる。
この人、一体どういうつもりだろう。

「お客様、よろしければこちらにどうぞ」
隣に座る先輩がサッと立ち上がり、お嬢様に向かってエントランス横のテーブルセットに誘導しようとする。

「いえ、いいわ。すぐに失礼するから結構よ」手で軽く制して
「櫂が”きゃんきゃん吠えるばかな仔犬を一匹飼ってる”って言ってたのはあなたのことだったのね。確かにきゃんきゃん吠えそうだこと」
私をまじまじと見てくすくすと笑いだした。

真っ青になって声も出せない私に
「私たち、よりを戻したの。櫂のことはもう忘れてちょうだい。
そもそもあなたみたいなお子様に櫂は無理なのよ。バカな仔犬は野良犬になったんだから、次は自分に合った飼い主を探すことね」
冷たい言葉をぶつけて笑いながら去っていった。
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