冷たいキスなら許さない
「興奮が冷めたらあの二人も誤解に気が付くって。あとでお袋には電話しとくからさ」
社長は軽くあしらうように言う。

「だいたいあの二人は思い込みが激しいんだ。お前、あんなのいちいち気にしてたらはげるぞ」

うっ。
いや、ハゲは嫌。女子だもん。

自分の後頭部にハゲができたことを想像して身震いをした。

以前の職場の先輩がストレスで頭部に500円玉くらいの脱毛をしてしまい、病院受診をしたけどなかなか治らず困り果てて、大金をはたいて民間療法のお世話になっていたことを思い出してしまった。

高いシャンプーにトリートメント。
マッサージ器具に円形脱毛症には禁忌なはずのヘッドスパ。
そのうち怪しいツボを買うんじゃないかと本気で心配したものだ。
結局、3個もあった円形脱毛症がストレスの元の上司が転勤した途端に彼女の毛根は復活を遂げて発毛したのだけど。

「はげるのは絶対に嫌」高らかに宣言する。

「じゃあ、気にしないで働け」

「ーー何だか経営者みたいなこと言うんですね」

諦めて窓の外に視線を向けた。
よく見ると社長の横顔がガラスに映っている。
・・・整った顔をしてるんだよね。口さえ悪くなかったらもっといい男なのに。

「あ」

思い出した。

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