冷たいキスなら許さない
その後、ハウジングセンターに向かうタクシーの中で会社に連絡したものの下北さんは来客中で直接話すことはできなかった。

「灯里さんから連絡が来たらとにかくハウジングセンターに向かうように伝えてって下北さんに言われてますけど・・・」
電話の向こうの杉本さんの声がいつもと違う気がする。歯切れが悪いというか不安そうな声。

「何かあった?社長はまだそこにいる?」

「--ええと、私が出社した時にはもう会議室にどなたかお見えになっていて。
今も社長と下北さんは一緒に会議室にこもっています。たまに下北さんは出てくるんですけど。誰も入らないように言われているんで中の様子はわからないんです」

「誰が来ているのかしら」

「さあ、わかりません。お茶もいらないそうなんで・・・」

「何かトラブルっぽい?」

「ええっと。そういうのとも少し違うかもー」
「ん?ん?」

杉本さんの返事にもいつものキレがない。

「あ、私もちょっと忙しいので失礼しますね。本木さんはとにかくハウジングセンターに向かってください」
そう言って電話を切られてしまった。

うーん。
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