冷たいキスなら許さない
「ええっと」コホンと咳払いをして
「本来なら半休というのはしっかりとした時間の決まりがあります」と姿勢を正して彼女たちに向かい合った。

私の声色と姿勢が変わり彼女たちもピンっと背筋を伸ばす。私たちの間にある空気感が変化したのがわかり少し安心する。

「決められた時間にしっかり働くのが当然です」
真面目な顔で彼女たちと視線を合わせていくと二人とも軽く頷いたりまばたきをしたりして同意する。

「でも、わが社は意地悪な会社でも融通のきかない会社でもありません。お互いフォローしあえる雰囲気作りも大切です。佐々木さんには中学三年生のお子さんがいて、これが最後の参観会です。たまにはこんな日も必要ですよね。この程度の裁量は私にもできます」

「でも、できれば他のスタッフには秘密にしてね」
最後だけガラッと硬い雰囲気を壊しいつもより砕けた声を出して
「はい、賄賂」と一粒ずつチョコレートを握らせた。

二人の瞳が大きくなる。
そりゃそうでしょ。
このチョコレート、これ一粒で有名な銀座の洋菓子店のショートケーキが二個買えるほどの高価なもので、おまけに限定販売ってことで手に入れるのも大変。

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