冷たいキスなら許さない
うちから車で10分足らず。
駐車場に入れると、先に着いていた櫂がすぐに車から降りてきた。

近付いてくる櫂を改めて見つめる。相変わらずのイケメン王子さま。
長い手足にスッキリとしたモデル並みの顔立ち。
たった二年とはいえこのオトコの彼女でいたことがあるとは。もしかしたら全部夢だったのかも。

「なに笑ってんの」

気が付かないうちに顔の筋肉が緩んでいたらしい。
「櫂は4年たってもイケメンなんだと思って」

思ったままを口にすると、櫂はずいぶんと驚いた顔をした。
そりゃそうだろう。再会してからずっと私は頑なに櫂を拒絶してきたのだから。

「灯里は可愛さが抜けてずいぶんと綺麗になったな」
もう夕方なのに眩しそうに目を細めてお世辞が返ってきた。

何なの、この褒め合い。
こんな状況で、しかもいつもなら毒を吐くのに少し笑ってしまった。

セクハラ常務と部下の件が素早く対応されていることで少し気が緩んでいるのかもしれない。

櫂に促されてファミレスの中に入りテーブルに向かい合わせる。
店内は程よく混んでいて幸いなことに両サイドの席には誰もいない。

「昨日は悪かった」
席に座るなり櫂が頭を下げた。

「セクハラのこと?それとも西倉恭香サンのこと?」

それともキスのことだったか。
私の口から”恭香”の名前が出たせいか櫂は一瞬身体を硬くしたように見えた。

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