冷たいキスなら許さない
「あの頃の俺は会社でそこそこの仕事を任せてもらえるようになっていたし、自分にも自信があった。でも、何故かコンクールで結果が残せないでいた。
そのうち後輩がコンクールで結果を残すようになって、次第に上からも下からもプレッシャーをかけられるようになって。
ーー疲れていた。灯里に会いたかったけど、灯里の明るさがあの時の俺には眩しすぎた。
灯里は俺のことなんでもできる王子様だと思っていただろ?実は仕事で結果の残せないダメな奴だって知られたくなかった」

櫂はふいっと視線を窓の外に向けた。

「そんな時にうちで飲みながらの二次会の打ち合わせがあった。キッチンにあったお揃いの食器を見て恭香が騒ぎ出したんだ。『なあにこの少女趣味の品のない食器は』って。で、どんな子と付き合ってるのかとしつこく追及されて”可愛い仔犬みたいな明るい子”だと言ったのが恭香は気にくわなかったらしい。多分それが原因だ」

私の知らない櫂と彼女の話。
あの4年前の話だ。

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