冷たいキスなら許さない
「それからぐっと恭香が距離をつめてきた。俺は忙しくて灯里のことも恭香のことも相手にする余裕がなくて。
そんな時、上司から見合いの話をもちかけられた。相手は恭香だった。
有名な寝具メーカーの娘だから親に頼んだろう。両親も家庭教師をしていたことで俺とは面識もある。そんな縁談だった。受けるつもりは毛頭なかったけれど、上司は受けて欲しそうにしていたな」

縁談。
あの人との関係はそんな一方的な話だったってこと?
お互いに好き合ってよりを戻して付き合っていたんじゃないの?
私が考えていたことと違った櫂の話に戸惑い胸の奥がざわめきはじめる。

「そして、・・・あれはやっと作った灯里との時間だったんだ」
櫂は息を大きく吸った。

あの日の話だ。
私は身構える。私が櫂から突き放されたあのピアスの日の話。
思い出しても身体が震えて指先が痺れてきそうになる。
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