冷たいキスなら許さない
ストーカーに近い状態だったってこと?

身体が総毛だつ。
櫂はあの頃、そしてあの後どんな目に遭ってどんな想いで過ごしていたというのだろうか。
私の知らなかった事実。知らされなかった真実。
瞬きも呼吸するのもはばかられるほどの驚きと衝撃を受けた。

「灯里にまた迷惑かけてしまったね」

今回のことなんて大したことじゃないよって言ってあげたいのに余りの衝撃に声が出ない。
声だけじゃなくて身体も動かない。

「灯里が泣くことじゃないよ」

目の前にいる櫂が手を伸ばして私の目の下を撫でるように頬に触れる。

ああ涙をぬぐってくれたのかーー
私は気が付かないうちに涙をこぼしていたらしい。
櫂の指先も冷えていた。昔はいつも温かい手をしていたのに。

「ほら、涙を拭いて」
櫂の刺しでくれたハンカチを素直に受け取って涙をぬぐった。
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