冷たいキスなら許さない

自覚する気持ち


翌朝、充血した瞳をだてメガネで隠して出社した。
ドライブから戻ったのは深夜2時で、それからホットミルクを飲んだのだけれど、なかなか寝付くことができなかった。おまけに眠りも浅く。
4時間くらいはうとうとできたはずなのに睡眠不足と泣きながら運転したせいでまぶたが腫れ瞳が酷く充血していた。

大失敗だ。

「うわあ、これはひどいなーー」
下北さんに”おはよう”の前に言われるほど私の顔はひどいらしい。

「申し訳ございません。昨夜ちょっと眠れなかったものですから」申し訳なさそうに俯くと、スタッフの何人かから「大変だったね」と声がかかる。
おや?と首をかしげると杉本さんが駆け寄ってきて説明をしてくれた。

社外秘になってはいるものの、昨日下北さんが住宅展示場にいる私のところに来ている間に運悪くゼネコン大崎の会社の偉い人がここに謝罪に現れてしまい、小さな会社故に社内の人間にセクハラ事件が知られてしまったらしい。

おかげでみんなのアタマの中で、昨日私がここに出社しなかった理由と今日こんなに目を腫らしている理由が一昨日のセクハラによるものという勘違いがめでたく(?)出来上がってしまいーーー結果的に皆に気を遣われ、この顔について何も詮索されることなく、ひとり会議室にこもってパソコンを叩くという作業に没頭できることになったのだけれど。
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