冷たいキスなら許さない
「お母さん、お腹痛いよぉ」
「うん、うん。もう少ししたらよくなるからね。がんばろう」
母が右手で手を握り、左手で頭を撫でてくれる。
小学生の頃虫垂炎になり、入院した時の夢だ。
私には5才下に弟がいる。
まだ幼稚園児だった弟にいつも母を取られていた私は我慢を強いられていたように感じていた。
もちろん母から強要されたわけじゃないけど。
お姉ちゃんだから我慢しないとなどと勝手に思っていた。
これが1つ2つ違いだったらまだよかったかもしれない。我慢などしないで甘えを口にできたのかも。
しかし、5才差というのは微妙だった。
私から見た弟はかなり幼くておまけに身体が弱くて、生きていくために母を必要とする年齢だと感じていた。
対して私はというと、母は必要だけれど、それは生存するためではなくて甘えるために必要としているんじゃないかと思っていて、母に甘えることに軽い罪悪感すら感じていたのだ。
だから、なんでも弟が優先されるのは仕方がないこと。
そんな風に考える大人びた子どもだった。
だから、この虫垂炎で母が弟じゃなくて私のそばにいてくれることが何より驚きで、そして嬉しかった。
弟が生まれてから初めて母を独占できたと思った。