冷たいキスなら許さない
点滴につながれ、痛みを訴える私に母も辛そうな顔をしながら私の手を握ってくれる。
「大丈夫、お薬が効いてきたら楽になるからね」
母の声に”がんばろう”と思った時だった。

コンコンっと小さなノックの音と同時に祖父が申し訳なさそうに顔を出した。
ハッとして胸にジワリとイヤな予感が広がる。

「秋実さん、マー君が泣き止まないんだけど・・・。灯里ちゃんは父親の修弘に付き添わせて秋実さんはマー君のところに行ってもらえんか?」

やっぱりだ。
母がいないと泣き出した弟の世話に手を焼いた父と祖父が困り果てて、母を呼びに来たんだろう。
私が病気になっても小さな弟は母を独占してしまう。
お腹の痛みより胸の痛みが大きくなってジワリと涙がにじんだ。

その時、母がぎゅっと私の手を握り
「行きませんよ」と即答した。

予想外の答えに”え、”と私の目も大きくなる。

「雅也には父親が付いてます。どうして痛みで苦しんでいる我が娘をほったらかしにしてそっちに行かなきゃいけないんですか。どう考えても優先すべきは灯里です」

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