冷たいキスなら許さない
なんでここに彼がいたんだろう。
なんで再会してしまったんだろう。
私の足元がぐらぐらと歪んでしまったような感覚に足に力が入らない。

・・・本物だった。桐山櫂。

相変わらずのイケメンモデル並みの容姿。
ちょっと薄い色素の肌色と透明感のある瞳。髪も黒ではなくて染めてもいないのにブラウン。
王子様っていうのがいるとしたらこんな感じじゃないだろうか。
白馬に乗って登場しても違和感ないかもしれないと付き合っていた当時の私は本気で思っていた。


背後から足音がして新人さんたちが戻ってきた。

「本木さん、さっきの設計士の男性とお知り合いなんですね」
「すごいイケメンでビックリしました!」
興奮した二人の様子に少しだけ冷静を取り戻す。

私は傷ついて泣いてばかりいたあの頃の私じゃない。あれはもう4年も前のこと。
今はもう27才になろうとしている大人の女なんだからしっかり仕事しよう。
今ここで動揺を見せてはいけない。しっかりしなくっちゃ。

ドキドキする心臓と裏返りそうになる声をどうにか抑えると
「はいはい、休憩終わり。来客者さんたちが来ないうちに研修はじめるわよ」
パソコンを開いて彼女たちの雑談を打ち切った。

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