冷たいキスなら許さない
「何を謝るつもりなのかな・・・」
それが4年前のことなのか、それとも先日の嫌味のことなのか。
ぽつりと漏らした言葉に「今さらだな」と櫂が強く反応した。

櫂の声には鋭い棘があって、まるで自分が怒られているような気持ちになる。
ビクッと身体が反応した私に櫂が「ごめん」と言った。

「でも、今さらなのは俺も同じか」

櫂は再びビクッと反応した私から視線をそらして残ったお茶を飲み干すと、腕にはめられた大きな時計を見た。

「灯里」

私の名前を呼んだくせに私の顔を見ようともせず、立ち上がった。
その様子を見つめるだけで私も返事ができずにいる。

「できるだけ早く、ゆっくり時間を作って欲しい。こんな会社の会議室でする話でもないし」

確かに。
恐ろしくプライベートな話だし、イケメンと二人きりで何の話をしていたのかとうちのおしゃべり雀たちの餌食にもなりたくない。

「うん。その通りだね。すぐに予定をメール連絡するから調整してちょうだい。その日は私が都内に出て行くから」

出来れば小田急沿線にしてと言うと櫂はかすかに笑い、二人の間の空気が変わった。
「酒アリってこと?」

「そういうわけじゃないよ。車だと都内の道がよくわかんないだけ。まあ、多少飲んでもいいけど」

「おっけ。じゃ明後日な。時間と場所はまた連絡する」
床に置いたビジネスバッグを持ち上げて櫂はふわりと笑った。

懐かしい。この笑顔好きだったな。
恋愛感情は無くなっても好みであることには変わらない。
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