冷たいキスなら許さない
本当なら明後日は社長が帰国するはずだった。
帰国が3日程遅れると連絡があったのは今朝のこと。
がっくり。
自分の気持ちを自覚した今は早く社長に会いたかった。それなのに帰国延期とは。
ついてない、本当についてない。

でも、社長が帰国する前に自分の過去の清算をするいい機会だとポジティブに捉えて顔を上げる。
社長から出された宿題にカタを付けるんだ。
だからこそ、櫂の誘いに乗った。

あれから2日後、定時で仕事を終えて小田急線に乗り都内を目指した。

待ち合わせの駅の改札を抜けると、人混みの中でもすぐに柱にもたれて腕時計を見ている櫂が目に入った。

さすがは王子様。

櫂には業界以外の雑誌にも取材依頼が入るとはイーストのスタッフに聞いていたけれど。
シンプルなセーターにスラックス。特に目立つ格好ではないのにどこか目を引く。
仕事の日でも客先に出向かない日はスーツはおろかワイシャツも着ないと言っていた通り、服装も自由にのびのびと仕事をしているらしい。さすが天下のイースト設計。

うん、やっぱり櫂はその辺の芸能人より遥かにカッコいい。何人もの女性が振り返ったり目を止めたりしている。

私ももう少しおしゃれをしてくるべきだったかな。自分の姿を見て反省。
待ち合わせしていたのがこんな貧相な女で申し訳ない。
私は商工会の会合に社長と支社長の代理として出席していたからちょっと落ち着いた色目のスーツ姿だった。
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