冷たいキスなら許さない
「後から考えると、大和さんはずっと見守っていてくれたから優しくなかったわけじゃないんだけど」

初めの3ヶ月ほどはほとんど毎日お昼休みになると、どこからともなく大和社長が現れ、進さんのお店に連れて行かれて日替わり定食を一緒に食べる。

私がお金を払おうとすると「給料から社割で天引きするからいい」って言ってたけど、実際は社長のポケットマネーだった。

それを知ったのは二回目の給与明細を見た時。食事代なんて項目がなかったから気が付いたのだけれど、結局その後も進さんのお店で社長は私のお財布を出させることはない。

「だから櫂の言う通り、”懐いた”っていうのもないこともないかもしれない。でも、これは優しくされて上司を慕うっていう気持ちじゃないの」

「灯里の勘違いじゃないって?」

「そう。私はどんなことがあっても大和さんの隣に立っていたいの。秘書の立場じゃなくてプライベートで。
彼の人生で他の女の人が大和さんの隣にいるなんて絶対に嫌なの。相手が大和さんじゃなきゃもう恋なんてしなくていい。・・・だから、ごめん」

櫂のことは本当に大好きだった。
あの頃は櫂しか見えなかったし、フラれた後もそうだった。
櫂がいないこの世界は全てモノクロのようだった。そこから救い出してくれたのは大和社長だ。
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