冷たいキスなら許さない
生活のために仕事を探した私に社長は突き放したり、寄り添ったりしながらいつの間にかモノクロの世界から連れ出してくれていたのだ。

櫂は再び大きく息を吐いた。

「--わかってたよ。灯里の気持ちも森社長の気持ちも。
あんなもん見せられたらさ、二人の間に付け入るスキはないってわかってたけどな。
それでも、4年前の後悔をずっと引きずっていたし、再会した灯里の生き生きとした姿を見たら”やり直したい”って気持ちが抑えられなかった」

ごめん
ありがとう
口に出さず、私はもう一度頭を下げた。


食事は割り勘で、と言ったのだけれど過去の清算だと言って櫂が支払ってしまった。

「酷い別れ方したおわび。こんなんじゃ足りないだろうけど、これ以上灯里を連れ出すのは無理だろうし。俺が灯里に近付くといつもおっかない顔してたもんな、森社長」
財布を胸ポケットにしまいながら苦笑している。

おっかない顔?
ああ、そうかもしれない。
櫂が私の大失恋の相手だって知ってたしね。

「俺が灯里に声かけると、眉間に深いしわが寄ってさ、いつもムッとするからまいったよ」

櫂には悪いけど、くすっと笑ってしまった。
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