冷たいキスなら許さない
「俺は過去にひどいことしたし、森社長と灯里がうまくいってるってことはわかってたから、これも当然の結果だな」

櫂はさばさばした様子でうっすら笑みを浮かべている。
それがわざとなのかはわからないけれど、重たい雰囲気にならず助かっているのも事実。

「でも、やり直したいって思ってくれてありがとう」
これは本心だ。
あれほど恋焦がれた人にバッサリとフラれて死にたいと思ったこともあった。自分のことなんてもう忘れているだろうと思ったこともあった。

「そう思うのならやり直せばいいのに」櫂は笑った。

「それはーー遠慮しときますケド」櫂の優し気な表情に胸の奥がチクリとして何故だか少し泣きそうになってしまい慌てて目をそらした。

「行こうか」
「うん」
ストールを巻きなおして二人肩を並べて駅に向かっていたけれど、通りの向こうにある明るいお店に櫂の視線が向いたことに気が付いた。
ああ、あのお店知ってる。先日雑誌で見かけたばかり。

「ね、もう一軒だけ付き合ってくれない?」

私の誘いに櫂が目を丸くした。
櫂が返事するより先に「あそこのお店に行ってみたいの。せっかく都内に来たんだもの」と指差して言えば櫂も「ああ」とほほ笑んでくれた。

私が指した先には櫂が見ていたシフォンケーキで有名なカフェ『breaking Dawn』があった。
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