冷たいキスなら許さない
夜の『breaking Dawnは』はそう混んでいなかった。
そもそもここがサンドイッチやパスタなどの軽食はほとんどなくて、ケーキが主体のカフェだからだろう。

私はチョコシフォンケーキと紅茶を、櫂はバニラクリームがたっぷり乗ったシフォンケーキとコーヒーを注文した。

「ところで、西倉恭香サンの件はどうなっているの?」
さっきのお店で聞けなかったことを口に出した。

一昨日会社で会った時に”謝りたい”と言っていたは聞いたけど、それ以上詳しく聞けなかったし。

「ああ、弁護士を通して断っておいたよ。俺ももう会うつもりはない。まあ、弁護士にうまく動いてもらうよ」

「櫂へのストーカー行為に関しては?」
「それは認めてない。あのパーティーにいたのも偶然だと言っていたみたいだ。知人から招待状をもらったと言ってるらしい」

「本当なのかな」
「調べたら確かにあの店のオーナーの妹が招待状を送っていた。有名なお嬢さま大学の先輩後輩関係だって言ってたからそれは嘘じゃないだろう」

「櫂がいるって知らなかったってこと?」
「誰が来るか知らなかったと言われればそれ以上確認できない。確かに招待状にはイースト設計の名はあっても俺の名が書いてあるわけではないし」

あの場で私と出会ったのは偶然らしい。

「この件はまた報告するよ」

西倉恭香の名を出した途端、櫂の顔に影が滲んだように見えた。
過去にそれだけのことをされたんだろう。
櫂のことを気の毒だとは思うけれど、だからといってこれから私が何かしてあげられるかというとーー無理だろう。

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