冷たいキスなら許さない
「そんなことより、こんなにきっぱり灯里にフラれてしまうと、会社で副社長に気の毒がられるのが目に見えてるよ。気が重いなぁ」
櫂は笑っている。

「あの時にうちの副社長が面白がるくらい俺の態度がバレバレだったってのがイタイなー」

そういえば、会食の時に東山副社長が言ってた。どっかの営業さんが私のこと落とすとか落とさないとかって言って櫂がムッとして言い返したとか。

「私、よそのメーカーの営業さんとあんまり接触してないけど。それっていつの誰のこと?」
長野ならともかくここに来て、私自身はたまに展示住宅で接客はするけれど、目立った営業活動はしていない。

は?と櫂が口をポカンと開けている。

「何度も食事に誘われてるだろ?」

「そりゃ、何度か社交辞令では言われてるけど、本気のやつはそうないよ。
みんなおんなじ、誰もが言う大人のセリフ。”一度お食事でも行きましょう”って。それはよく言われる。でも、そんなの誰でも皆言ったり言われたりしてることでしょ」

このフレーズ、社会人ならよく使うんじゃないだろうか。

そして大概においてそんな”一度”はやってこない。
ほぼ”ごきげんようさようなら”の挨拶のような同義語として”また是非一度お食事にでも・・・”って言うよね。

もちろん、本当にビジネスでその場で約束されればそれなりにきちんと対応するけど、ビジネスが絡まなきゃ行かない。でも基本、ビジネスならビジネスで私ではなくだいたい営業さんに行ってもらう。
相手によっては支社長の下北さんか社長のお供で同席することはあるものの私が一人で行くことなんてない。社長秘書が一人で出向くビジネスがらみの食事ってなんだ?ってことで。
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