冷たいキスなら許さない
「誰のことを言ってるのかわからないわ。ま、こっちに来てからは相手が誰であってもほとんど誘われても行かないけど」

「俺の想像よりひどいな」
けらけらというよりゲラゲラと笑い出した櫂に周囲の注目がさらに集まってしまい、慌てて”しー”っと人差し指を立てて注意した。

「茶髪のチャラいやつだよ、あいつしつこく誘ってきたんじゃないか?」

茶髪のチャラいやつーーー?
何人かいたような。どの人だろう?

「灯里の記憶にも残らないのか?俺の心配は全くいらなかったな」
笑う櫂に私は首をかしげる。
「心配してくれたんだ」
「そりゃそうだろう。相手は百戦錬磨だって噂だったし」

”百戦錬磨”の言葉ででピンとくるものがあった。

「もしかして、トウマキの茶髪の営業さん??」
「おう、覚えてたじゃないか」

「いたね、しつこい人。うちとは取引なかったから私じゃなくて支社長か営業のトップに話をって言ったのに何度も来た挙句に『自分に落ちない女性は君が初めてだ』みたいなこと言うから鳥肌が立ったわ」

思い出した。そう、いたわ、そんな人。

「どうやって断ったんだ?」
「ビジネスですかって聞いたらプライベートでって言うからもちろん即お断りしたよ。そんな暇ないし」塩対応したと返事した。

私の一週間のうち三日は残業、二日は美味しいご飯が頂ける森家のご両親のところ、そして残りの二日は長野なんだから。

「でも相当しつこかったんじゃないの、あいつ」
面白そうにニヤニヤしている。

「んー、そうね。・・・4回目にたまたま社長が来てた時で・・・お断りしてくれた」

正確には追っ払ったなんだけど。
言わなくても櫂には伝わったみたいで、大笑いをしはじめた。

「4回粘った挙句に森社長の登場かー、そりゃあいつも気の毒だったな」
< 309 / 347 >

この作品をシェア

pagetop