冷たいキスなら許さない
頂いた箱を開けるとフワッと甘いシュークリームの香りがする。

いつもなら大歓迎のスイーツだけど、今日はこの香りで嫌な思い出がこみ上げてきてクラっとする。
バニラのスイーツは櫂の好物だった。

「美味しそう。でも、私二日酔いで胃がむかむかするから今日はパスです。三人で美味しく食べちゃってね」

シュークリームの箱を新人さんの手に渡すと、
「じゃあ私は飯嶋邸の現場視察に行って社に戻ります。小城さん、あとはお願いします」
と手早くパソコンを片付け始める。

「本木さん、そんなこと言ってお昼ご飯もほとんど食べなかったじゃないですか。大丈夫ですか」
新人スタッフの一人が私の顔色をのぞき込むように声をかける。

「心配してくれてありがとう。インスタントのお味噌汁飲んだし平気、平気。今度から飲みすぎないように気を付けるね」
勘のいい小城さんに追及される前にさっさと展示住宅を出た。

まさか、元カレに再会したショックでご飯が喉に通らなかったなんて言うわけにいかない。

失恋から4年たっても食べ物が喉に通らなくなるほどの衝撃だった。
私の傷はまだ癒えていなかったってことだ・・・。



< 31 / 347 >

この作品をシェア

pagetop