冷たいキスなら許さない
確かにちょっとかわいそうだったかも。
うちの大柄の暴君が仁王立ちで
『君、どこの会社の人?仕事中にうちの秘書に何の用事?ビジネスなら俺が話を聞くし、プライベートならコイツ俺のだからやっぱり俺が話を聞くけど。どうする?』
とたたみかける様に言い放ったのだ。
茶髪くんは「いえ、申し訳ありません」とか何とか言って逃げていったわ。

「森社長が出て来たらどうしようもないだろうな。俺だってそうだ。うちの副社長から見ても初めから俺の負けはわかってたんだよ。二人とも俺の付け入るスキがない位イイ感じだったし」

櫂の発言に首をかしげた。
「ーー私と社長って、そんな風に見えるのかな?」

そうなんだろうか。
私たちはまだ付き合ってるわけじゃなくて偽カノの関係で、仕事のパートナー。
それでも周りにはうまくいっている恋人同士に見えてる?

「何だよ、その言い方。うまくいってないの?ケンカでもした?もしかして俺まだチャンスある?でも、さっきも言ったけど、呼吸ぴったりじゃないか、灯里たちって」

「ケンカはしてないけど」

言葉に詰まった私に櫂は少し驚いたように目を向けた。
櫂は知らないのだ。
私が社長の仮の彼女役をしているという事を。

「うちの東山社長と初顔合わせで食事に行ったときのこと、覚えてる?」

勿論覚えてる、櫂の大叔母さまの料亭での会食の日だ。
大きく頷いた。
「東山社長も大和社長も酔ってた日だよね」
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