冷たいキスなら許さない
「灯里、ありがとな」
お店を出て櫂がにこりと笑う。

私は”どういたしまして”の代わりに微笑みを返した。

おそらく櫂はこの店が気になっていたんだろう。
だけど、男一人じゃ入りにくい、かといって職場の女性を誘おうものなら自分に気があるのかと勘違いされるのがおちだと思って入れないでいたんじゃないかと思って誘ったのだけど、どうやら当たりだったみたいだ。

「ああ、なんでこんな気の付くいい女、手放したんだろうな。俺って見る目がないダメオトコダ」
「大げさに棒読みで言われても何にも響かないよ」
けらけらと笑えば、櫂も笑ってくれる。

「また一緒にって言いたいところだけど、それは許可が下りないだろうから諦める。でも、これからも会う機会はあるはずだから、協力よろしくな」
櫂の目が期待に揺れているのがわかる。

「スイーツのことなら」
微笑み返す。
「仕事の打ち上げとかの飲み会の時では俺の分のデザートも一緒に頼んでくれるよな」
「ん、わかった。生クリームの乗ってるやつを第一選択にするね」
親指を立ててみせると
「最強の協力者誕生」と櫂の嬉しそうな声が戻ってきた。

「送ろうか?それとも森さんが迎えに来る?」
「ううん、社長は今バンクーバーなの。帰国は明後日」

「そうか」櫂の目がキラキラと輝く。

「今日はあのおっかない顔の番人は海の向こうか。くくっ。さぞかし心配してるんだろうな」
櫂ったら今夜いつものクールなイケメンはどこかに行ってしまったらしい。ずいぶん表情豊かで楽しそうに笑っている。
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