冷たいキスなら許さない
「あなたに協力する気はありません。私を利用しようとしているのならお生憎様だけど」
私は冷たく言い放った。
「こんな茶番、終わりにしませんか?時間の無駄ですよ」

西倉恭香は大きく息を吐いてやれやれというように首を左右に振った。
「利用するつもりじゃない、あなたに謝ろうと思ったのも本当なのに」

呆れて笑ってしまいそう。これじゃいかにも私が聞く耳を持たない頑なな女みたい。
「口先だけの言葉に騙されるほど、そんなにお人よしじゃないんですけど」

私が冷たい視線で言い放つと
「あら、利用できるかなって思ったのに。鎌倉のパーティーでも泣きそうな顔してたし。でも、残念ながら今回は使えないのね」
片眉をくいっと上げて、あの泣き顔はどこへやら、あっさりとあっという間に西倉恭香が本性を現した。

「本当に残念なヒトですね、あなたって」
「あら、欲しいものを欲しいって言って何が悪いの?」
悪びれない態度のこの人は実にこの人らしい。
そうそう、こっちの方がこの人、西倉恭香だ。

「あんな泣きマネで今まで何人か騙されていたんですか?ずいぶんわざとらしかったですよ。おまけに間にちょこちょこと本音が顔を出していたし。演技するならもっとしっかりやらないと」

「あら、結構騙せるものだけど。残念、あなたには通用しなかったのね」
私に言い負かされることなく微笑んでいる。

「櫂のストーカーだってことは認めるんですね」
それははっきりさせないと。そう思った。

「違う」
私の突きつけた言葉に西倉恭香は大声を出した。

「ストーカーじゃない。ストーカーなんかじゃない。だって帰国してからまだ私は近付いていないもの。本当に知り合いから櫂の話を聞いただけ」
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