冷たいキスなら許さない
「西倉恭香、寝具メーカーニシクラの娘だね。うん、わかった。すぐに動いてあげるから灯里ちゃんは心配しなくていい。任せておきなさい」

力強い新発田社長の言葉にホッと胸を撫で下ろした。

「イースト設計の桐山君には以前から私も注目しているんだよ。灯里ちゃんと接点があったとは思わなかったがね。灯里ちゃんに目をつけるとは女性をみる目がある、と言いたいところだけど、別れたのならやっぱりみる目がなかったんだろうなぁ」
わははっと笑う電話の向こう側の新発田社長の陽気な声に私の気持ちも解される。

「あの頃は彼も私も若かったので、いろいろ余裕がありませんでしたから」
別れたのは櫂だけのせいじゃないことは伝えておかないと。
何せ同じ業界の人間だ。

「それより、お宅の大和君はこの事知っているんだよね?」
「いえ、西倉恭香の件はまだ言えずにおりまして」
「え?それはどうして」
「今、うちの森はカナダにいるものですから。決して隠しているわけではございません。外国で心配かけるのもどうかと思いまして。帰国したらきちんと話すつもりでおります」

ああ、と新発田社長は納得したというような声を出した。
「大和君はいつ帰国するんだい?」
「三日後の夕方の便で帰国する予定です」
「三日後か。うん、それじゃあやっぱり私に相談した灯里ちゃんが正解だな。大和君が帰国する頃にはカタがついているはずだ」

え?
思わず驚きの声が漏れた。
「三日で、ですか?」
「そう、三日あれば」
自信満々な答えはさすがと言うか。

「弁護士なんか紹介しなくてもカタがつくから」
新発田社長の余裕の発言に私は少し戸惑う。
これはもしかして相談する相手を間違えたかもしれない。

日本経済を動かしているような人に私がプライベートな問題をお願いするなんてよく考えてみたらかなり図々しい話だ。
視線一つで他人を動かせる人にこんな事は他愛もないことだと言われても、私にどんなお礼ができるだろう。

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