冷たいキスなら許さない
「お礼ならあの後お花も頂いたし、もうとっくに済んでるじゃないですか」
「いや、私はきちんとお礼がしたかったのに、灯里ちゃんがいいって言い張って花しか受け取ってくれないし」
「花しかって、あれは相当なものでしたけれどーー」

どうしてもお礼がしたいと言い張る男性といらないという私の攻防は、釣り場の近くにある園芸農家の路上販売のお花を買っていただくということでなんとか収まったのだ。
両手いっぱいどころか新発田社長は路上販売のお花を全部買い占めたのだから私の帰りの車内はお花でいっぱいになっってしまったほど。

それからしばらくして、社長の付き添いで行った地元の財界パーティーで再会した時はお互いに本当に驚いたのだった。

「渓流釣りをしていた新発田さん」と「釣りガールの灯里さん」は実は新発田建設の社長とフォレストハウジングの社長秘書。

お互いの素性を知った後で新発田社長と私は改めて自己紹介し、それから定期的に二人で渓流釣りを楽しむという間柄になった。


「いくらなんでも何年も前のテーピングのお礼じゃ申し訳ないですから」
こんな面倒をかけるのに、と今度は私の気持ちが収まらなくなってしまう。

新発田社長もうーんと電話の向こうで唸ると、
「そうだ、灯里ちゃんと大和君はどうなってるのかな？」
といきなり話題が変わった。

「－－ええっと」言いよどんでいると
「私と妻で仲人がしたいと言ったらーーーどうかな」

ええ？仲人ですか？
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